FOOD
まるごとバナナのシフォンケーキ
思春期とよばれる時間の中で過ごすわが娘には
たくさんの疑問符があるみたいだ。
まいにち朝起きてから寝るまで。
母のしらないたくさんの「なぜ」や「どうして」が
あたまとこころをいっぱいにしているらしい。
そしてときどき。
その「なぜ」や「どうして」が
抱えきれない荷物みたいになっちゃうとき。
修行僧のようにひとりっきりで、ひっそりと
布団にこもって過ごすのだ。
こんなとき、こもる部屋がないことも娘には
「どうして」のひとつかもしれないなぁ。
小さな弟はかわいいけれど、ずっといっしょにいると
何も知らない彼の無邪気さに腹が立つこともきっとある。
だから母は考えた。
そんなきみも、まるごと愛そうじゃないか。
きみの好物のバナナケーキをこしらえて。
部屋じゅうに、いい匂いをただよわせよう。
きみが布団から顔を出したくなるように。
下向くきみの顔が、顔を上げたくなるように。
母なりの非常(日常じゃなく)にわかりにくい作戦で、
きみの帰りを待とうじゃないか。
「おかえり」と「ただいま」をくりかえしながら
少しずつ少しずつ、
きみのもつ「なぜ」や「どうして」と距離をちぢめよう。
言葉がいらないことのほうが
この世にはおおかったりするのだよ。
ただそこにおいしいものが置いてある
そっちのほうが伝わることだって
あるような気がするんだよ。
おいしいって最強。
修行僧だっておいしいの煩悩には無防備なはず。
おいしいはすべての人に平等におとずれる幸せ。
そんなささやかな幸せを、
ただきみと分かち合いたいから。
きみが少しでも笑顔になれるように、
バナナの生地にバナナをのせよう。
まるごとバナナのケーキにしよう。
バナナづくしのケーキに、
きみが少しでもわらってくれたらさいこうだ。