FOOD
喫茶ロアールの山盛りポテトサラダ
時は昭和。
ここは小さな町の一角にある喫茶店、「喫茶ロアール」。
ボブサップ並みにガタイの良い強面の二代目マスターと
高島礼子似の華奢な美人ママが
夫婦で経営する店。
二人がけのテーブル席がふたつと
五人掛けのカウンター席の店内には
矢沢永吉と想い出のサンフランシスコしか流れない。
朝が極弱いマスターと、そんなマスターに
いつもイライラしながら眉間にシワを寄せている
美人ママの料理が美味しいと噂で
訪れる人が後を絶たないのだ。
今日のランチにはトンテキを頼んだ。
カウンター席に腰かけるや否や
強面のマスターが、「今日はトンテキにしとけ」
と言うから断れなかった。ソースの隠し味に
ウィスキーが入っているらしく、マスター自慢の
メニューらしい。トンテキを焼いている間、
美人ママがポテトサラダを出してくれた。
ひとくち食べてみる。
あれ、と思った。
今まで食べてきたポテトサラダと何かが違う。
もうひと口食べてみる。
‥旨い。旨すぎる。
じゃがいもの風味が生きている。
マヨネーズは控えめなのに、味はしっかりついていて
ハムやきゅうりの塩気と絶妙にマッチしているのだ。
思わずマスターを見つめた。
「なんや、まだトンテキ焼けるの待たれへんのか?」
関西弁の大きな声が飛んでくる。
返事をする間もなく、マスターの太い手が伸びてきて
空っぽになった皿に、ポテトサラダが山盛そそがれる。
「そんなに入れたら、トンテキ食べられへんやろ!?」
あきれ顔で笑いながら、美人ママが
マスターにツッコミを入れる。
「もうちょっとで焼けるから、待っとけよ!」
キッチンからトンテキの焼けるいい匂いといっしょに
またまた大きな声が飛んでくる。
山盛りのポテトサラダに箸を伸ばす。
口に運ぶ瞬間、ふわっとじゃがいもの
素朴で優しい匂いがした。
矢沢永吉のバラードといっしょに
口の中でゆったりと、ほどけていく。
ここは喫茶ロアール。
誰もがおいしいで、しあわせになれる場所。