FOOD
ありがとうのかぼちゃのお餅
かぼちゃのお餅は子どものころ、
母がよく作ってくれた思い出のおやつだ。
母も子どものころに母の母、おばあちゃんに
よく作ってもらっていたそうで、
できあがったかぼちゃのお餅をテーブルに並べるとき
必ず「おばあちゃんがよく作ってくれたんや〜」と言う。
もう何十回も聞いたで?って思うんだけど
毎回、毎度言うもんだから、時が経ち母になった私が
かぼちゃのお餅を作っていると、頭ん中に
「おばあちゃんがよく作ってくれたんや〜」
の母の声、母の表情がでてくるようになってしまった。
ただあの時とはちょっとだけ、今は感じ方が違う。
あのときは、もう何回も聞いたで?みたいにしか
感じてなかったあの言葉。
母は何度も同じことを言いたかった
わけではなかったんだと、今ならわかる。
母は『おばあちゃんがよく作ってくれた』
という思い出を大切にしていたのだ。
シングルマザーだったおばあちゃんは頼れる家族もなく
幼い母と母のお姉さんを女でひとつで育てていたらしい。
そんなこんなで母の家庭はとても、とっても貧しかった。
のちにそんな気丈なおばあちゃんに
「あなたの子どもたちをいちばんに幸せにします」と
プロポーズしてくれる8つ下の運命の王子様の
おじいちゃんと出逢うまで、母はおばあちゃんの
笑った顔をみたことがなかったらしい。
「いつも眉間にシワを寄せていた。今思えば、
生活に余裕がなかったんやろうなぁ。」
と母が話していたのがとくに印象的だった。
おばあちゃんの目に見えていた世界は、
一体どんな世界だったんだろう。
朝から晩まで働きっぱなし。今みたいに子育て支援も
充実してない世界。笑えないくらい貧しい世界。
そんな世界の中で、つくっていたかぼちゃのお餅。
おやつを買うお金がなかった‥なんていったら
それまでで、たしかにそうかもしれない。
かぼちゃを茹でてつぶし、片栗粉を入れて
丸めただけの、かぼちゃのお餅。
焼きすぎるとすぐに焦げ目ができちゃうかぼちゃのお餅。
甘いチョコレートや苺の乗ったケーキの代わりに
黄金色にひかるかぼちゃのお餅。
母はかぼちゃのお餅が、だいすきだった。
きっかけや理由はなんだっていいのだと
こんなとき、思うのだ。
昔、誰かが言っていた。
「人のこころに残るのは、あの時、あの瞬間、
自分のために何かをしてくれたっていう記憶だけ」
何をしたとか何をくれたとか、
お金持ちだとか貧しいとかじゃなく
自分のために心をくばってくれたこと。
大切な誰かのために、今の自分ができる範囲の
何かを与えたいと思う気持ち。
「誰かを思う気持ち」。結局、シンプルな愛情だけが
こころの中に残ってく。時間がたってそれが
「ありがとう」に変わってく。
「おばあちゃんがよく作ってくれたんや〜」
時がたち、こんがり焼けたかぼちゃのお餅と
並ぶ母の声。嬉しそうで懐かしそうな母の表情。
『母さん、作ってくれてありがとう〜』
今の私には、そんなふうに聴こえるんだ。